『坂の上の雲』に描かれている明治という時代は、永く続いた封建社会が崩れ、外国に負けない近代的な国家の建設に向けて歩み出した激動の時代でしたが、幕藩体制から解き放たれた国民みんなが、身分を越えて「日本人」として、ひとつの目標を共有したはじめての時代でもありました。松山に生まれた正岡子規や秋山好古、真之兄弟も、あらゆる困難に直面しながら、激動の時代を、それぞれが『坂の上の雲』という夢や目標を持って、ひたむきに生きてゆきました。
 それから100年あまり… 豊かになった現代の日本では、その日さえ楽しければいいという刹那的な生き方で、夢や目標を持つことを忘れてしまった人が多くなっていると感じます。だからこそ私は、子規たちをはじめとした明治人が持った気概や情熱を現代に生きる私たちが学ばなければならない、そう考えます。「大きくても小さくても、何だっていい。みんなで夢や理想や目標を持とう。それさえ見えれば人はそれに向って一生懸命生きることができ、そのことが人生を充実したものにしてくれる」このまちづくりを通じて、ひとりでも多くの人たちが夢や目標を持つことの尊さを感じて欲しいと願っています。
 また、松山には小説ゆかりの地域資源が数多く眠っています。それら既存の資源を市民みんなで磨き上げ、結びつけることで、まち全体を屋根のない博物館に見立てて、物語りを感じてもらえるように、まちの魅力をアップさせていくのがこのまちづくりの大きな目的です。松山にとって『坂の上の雲』とは、他の地域にはない貴重な財産であり、地方間の競争に勝ち抜き、自立していくための「切り札」であります。
 「松山に来たら、『坂の上の雲』を味わって、元気になろう」そう思ってもらえるまちづくりを目指していきたい、それが私の『坂の上の雲』であります。

正岡子規
秋山好古
秋山真之
 小説『坂の上の雲』とは、松山出身の俳人正岡子規、日露戦争で活躍した軍人、秋山好古、真之(子規の同級生)兄弟の3人を主人公とした司馬遼太郎さんの長編小説です。彼ら3人の生き様を通して、明治時代の人々の高い志しや前向きな発想が描かれています。
 小説の舞台となった松山には、彼ら3人を育てた自然、文化、風土が今も数多く残っています。そこで、小説に描かれた高い志のもと、市内に点在する貴重な資源をまちづくりに生かすため、「『坂の上の雲』フィールドミュージアム構想」を展開しています。
 この構想は、市内を「屋根のない博物館」と捉え、市内に点在する資源を結びつけ、回遊性を高めた物語のあるまちにしようとするもので、具体的には、松山城を中心としたセンターゾーンと、市内各地に4つのサブセンターゾーンを設定し、それぞれで地域資源を発掘、整備しつつそれらを結びつけていきます。
 このまちづくりは、行政主導ではなく、地域住民が主体となって進められることが重要であり、その結果として市民一人ひとりが生まれ育ったまちに愛着や誇りをもつことができると考えます。
 
まちづくりへの取り組み



坂の上の雲のまちづくり 主な取り組み事業
『坂の上の雲』
まちづくり市民塾
 行政主導ではなく、市民レベルでの幅広い参画が必要不可欠であることから、まちづくりについて市民自らが学習し、自由な立場で意見の言える場、「『坂の上の雲』まちづくり市民塾」を行っています。
 平成15年のスタート以降、現在3期生を迎え、多くの塾生を送り出しました。
『坂の上の雲』
まちづくり勉強会
 市民と共に元気なこころざしのあるまちづくりを目指して、『坂の上の雲』をテーマに勉強会(講演会等)を随時開催しています。年に1、2回の割合でこれまで5回開催し、建築家の安藤忠雄さんやフライブルク市長などを招き、多くの市民にまちづくりへの関心をもってもらう機会となっています。
『坂の上の雲』
ウォーク
 『坂の上の雲』に描写されている、常に前向きに生きた明治の青年たちの志を学ぶとともに、市民に自分たちの郷土の歴史、風土、文化を再認識するため、毎年10月、市内(年ごとに違う地域)でふるさとウォークを実施しています。


フィールドミュージアム活動支援事業
本事業は、『坂の上の雲』フィールドミュージアム構想の具現化活動として、官民の役割を理解し、実効性のある公共施設をはじめ地域資源の利活用に主体的に取り組もうとするNPOや市民団体を支援(助成)することにより、官民の協働による新しいかたちのまちづくりを進めることを目的としています。
その手法としては、学識経験者や関連団体、NPO関係者などから成る実行委員会を組織し、申請を行ったNPOや市民団体を審査、選定し、助成額を決定し、事業連携を進めていくものであります。
平成16年から開始して以降、市内各地で、地元住民や市民団体の自主的な活動により様々な地域資源が発掘され、地域の魅力アップと市民参加のまちづくり機運の醸成につながっています。

<事業フロー>



フィールドミュージアム活動支援事業によって地域が主体となって取り組むまちづくりが各地で進んでいます。その事例をいくつか紹介します。


1.松山城周辺
ロープウェイ街周辺における地域財産を活用したまちづくり
まちの再生をテーマに、松山城・ロープウェイ街を中心とした地域財産を活用したイベントの企画運営を通じて若者や周辺住民のまちづくりに対する意識の高揚を図っている。(スキップ)
2.道後温泉
まちのむかしが息づくまちづくり
松山の昔話を掘り起し、松山らしい場所で伊予弁で語る「松山の昔話を聞く会」などを地元老人クラブの協力を得て開催し、まちの発見・再評価を行っている。
(青春亭 お伽座)
2.道後温泉
道後ネオン坂再生計画調査
ネオン坂のにぎわいを地域住民とともに考えていくためのしくみづくりと朝日楼を有効活用するためのコミュニティビジネス案の検討計画を行っている。
(アジア・フィルム・ネットワーク)


3.三津浜・梅津寺
潮騒文化再生による高浜まちづくり 「ターナー島」を軸とする地域資源にスポットをあて、島を多くの市民にしってもらうためのクルージングの実施や、島を眺望できる「なめこ山」の利用を目指して草刈・正宗等の活動が行われている。
(ターナー島を守る会)
3.三津浜・梅津寺
潮騒文化再生による高浜まちづくり 三津浜のまちとその文化、風土など地域の魅力を発掘し、市民と共有するために地域住民や大学生、NPOなどと連携を図りながら、スタンプラリーや歴史的建造物の調査、展示などを行っている。(平成船手組)
4.久谷・砥部
地域性を生かした里山再生まちづくり 久谷の地域性を生かすため、昔の遍路道と遍路文化を掘り起す活動を実施。地域の文化・自然のすばらしさを体感する「遍路ツーリズム」や「里山ウォーク」を実施している。(NORA)



センターゾーンのメインエントランス
ロープウェイ街の整備
 フィールドミュージアム構想でセンターゾーンの玄関口に位置づけらるロープウェイ街の整備が商店街の人たちが主体となって進められ、通りに面した建物のファサード(建物の正面)整備事業とともに、電線類の地中化、道路景観整備などにより、統一感のある新しい町並みに生まれ変わりました。
歩行者にやさしいまちづくり
道後温泉本館周辺の整備
 「道後サブセンターゾーン」の中心、道後温泉が生まれ変わろうとしています。本館前の車道を裏側に迂回させ、本館正面を、石畳を敷き詰めた歩行者専用空間にするよう景観を整備しています。これは地元住民が道後活性化のために立ち上げたワークショップの中から提案されたものであります。
いよいよ来年春完成!!
坂の上の雲ミュージアム
 まちづくりの核となる施設として建設中の「坂の上の雲ミュージアム」は、三角形という大胆な形状の、地上4階、地下1階の鉄骨鉄筋コンクリート造りで、市内中心部、城山の南裾に建設されます。設計は、日本を代表する建築家の安藤忠雄さんです。
 訪れた人たちに『坂の上の雲』をより深く理解できるように、松山出身の主人公たちの人生や業績を紹介し、『坂の上の雲』の時代をイメージできる展示を目指します。
 今後は『坂の上の雲』のメッセージを基本理念として、市民参加のまちづくりを誘発する活動拠点としてその役割を担います。
財団法人 都市みらい推進機構
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